医療機関の防災対策について考える
ますますクローズアップされる医療機関における防災対策の必要性
9月1日は「防災の日」。9月1日は関東大震災が起こった日であるとともに、台風シーズンを迎える時節でもあり、国民に地震や風水害などに対する心構えを啓発する目的で1960年より「防災の日」として制定された。
「防災の日」で認識を深めるべき、〝災害に対する心構えや危機意識”については、昨今、わが国において自然災害による甚大な被害が多発している現状からも、ますます真摯に向き合いながら醸成していくべきものとなっている。人命を預かり、人命を守るという重要な使命がある医療機関であればなおさらだろう。
昨今の自然災害が医療機関に及ぼした被害について見ていくと、今年4月25日付の産経新聞の記事では、2016年4月に起きた熊本地震において、熊本県内896の医療機関が一時機能停止になり、15機関の入院患者ら計1290人が転院を余儀なくされたこと。また、昨年末までに熊本地震の震災関連死として認定された197人のうち、2割にあたる43人は、病院が被災したため初期治療に遅れが生じたことが原因の一つだったことを報じている。
今年7月、中国、四国地方を中心に発生し、200人以上の死者を出した西日本豪雨では断水や浸水、停電の被害を受けた医療機関は京都から長崎にかけての6県で94施設あり、人工透析を行う医療機関などに大きな影響が出たことを厚生労働省では7月16日付の被害状況として公表している。
こうした自然災害による被害に対して日本医師会では災害発生時に編成し被災地に派遣する災害医療チーム(Japan Medical Association Team:JMAT)を稼働させ、被災地の支援に入り、現地の医療体制が回復するまでの間、地域医療を支える取り組みを行っている(左表:日本医師会HP「東日本大震災におけるJMATの活動について」より)。西日本豪雨においてJMATは7月12~20日の間に岡山、広島、愛媛に延べ226名の医師、看護師、薬剤師、事務職員らを派遣している。
大きな自然災害などが発生した場合、被災した医療機関に何かしらの支障が出てしまうことは不可避であるとしても、人命に危害が及ばぬよう、被害を最小限に抑えるための適切な防災対策を講じておくことが重要となる。たとえば防火管理や設備・機器の保守担当者を誰にするか、逃げ遅れがちな重症患者たちをどう誘導するか、病院同士で事前に相互援助の協定を結び、災害拠点病院や近くの医療機関とどう協力していくかなど、できる限りさまざまな災害場面をより具体的に想定し、取るべき対応を事前に取り決めておく必要があるだろう。
消防法改正により医療機関にはいっそうの防火対策が義務付けられる
2013年10月、福岡市の有床診療所に火災が発生し10人が死亡する事故が起こった。この事故はその後の調査により、自動火災報知設備の鳴動後に診療所からの通報がなされなかったこと、消火器及び屋内消火栓が初期消火に役立たなかったこと、階段部分を閉鎖することで防火区画を作るはずの防火戸が閉鎖せず、階段室等を経由して早期に煙が上階へ伝播したことにより大規模な事故に発展していったことがわかった。この報告を受け総務省消防庁は厚生労働省、国土交通省の連携のもと、2014年10月に消防法施行規則の一部改正した「有床診療所・病院における火災対策等について」を公布し、2016年4月に実施した。
以下に改正内容の要旨を示すと、病院及び有床診療所のうち「避難のために患者の介助が必要な有床診療所・病院」には、原則として、面積にかかわらず、スプリンクラー設備を設置しなければならないこととなった(改正前は、原則として、全ての病院は3000㎡以上・全ての診療所は6000㎡以上に義務付けられていた)。なお現在は経過措置中であり、実際の設置義務は2025(平成37)年以降となる。
ちなみに「避難のために患者の介助が必要な有床診療所・病院」とは――①患者が避難困難でないと考えられる13診療科(歯科、皮膚科、泌尿器科、乳腺外科、肛門外科、形成外科、美容外科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、小児科)しか持っていないこと、②夜間においても相当程度の患者の見守り体制(13床当たり職員1名)があること、③精神病床、感染症病床、結核病床しか持たないこと、④3床以下である有床診療所――を除く有床診療所や病院を示す。①~④の条件を備える病院・診療所は基本的にスプリンクラーの設置対象外となるが、延べ面積が3000㎡以上であればスプリンクラーの設置が義務づけられる。
なお、病床や入所施設がない無床診療所及び無床助産所については、引き続き、延べ面積が6000㎡以下であればスプリンクラー設備義務が課されない。また改正前は、150㎡以上の病院、診療所及び助産所に義務付けられていた消火器具(消火器または簡易消火用具)の設置については、全ての病院、有床診療所及び有床助産所で設置しなければならないこととなった。
さらに改正前は、500㎡以上の病院、診療所及び助産所に義務付けられていた消防機関へ通報する火災報知設備の設置についても、全ての病院、有床診療所及び有床助産所で設置しなければならなくなった。
加えて「避難のために患者の介助が必要な有床診療所・病院」については、自動火災報知設備(感知器)の作動と連動して火災報知設備を起動させることが義務付けられることになった(左図:消防法改正に伴う防火施設設置義務化のスケジュール(総務省HP「有床診療所・病院における火災対策等について」より改編)。
このように消防法の改正は医療機関において火災対策をより充実させることを誘導する施策となっている。自施設を見直し、災害があっても被害を最小限で食い止めるだけの耐震・耐火構造化を図ることで、人命を守るという責務を医療機関は果たしていかなくてはならない。